もしものときに役立つ被災者支援制度 一方、課題も

昨年は、埼玉県にとって、試練の年だったといっても、過言ではありません。

 

昨年8月に発生した台風9号は、11年ぶりに関東に上陸し、猛威をふるいました。

 

所沢、秩父、飯能などの地域で、とても激しく打ち付けるような大雨。

音をたてて滝のように降り、道路には川のごとく水が流れ、マンホールからあふれ出る程。

突風で車はあおられ、運転するにも身の危険を感じるような激しさ。―

 

この台風の影響で、所沢市中心部では東川が氾濫し、多くの住宅を浸水しました。

また新河岸川の流れる志木市では、床上浸水、床下浸水だけでなく、高台にあった戸建て住宅では、家を支える擁壁(高低差がある場所などを埋めるための盛り土が崩れないように、支えるために作られる壁のこと)が崩れ落ちるという、大きな被害にもみまわれました。

 

震災ほどの大災害ではないにしろ、この台風で苦しい思いをされた方は決して少なくなく、生活の立て直しのためには、膨大な時間とお金、労力がかかっていることは、いうまでもありません。

 

国の支援と問題点

 

日本には、自然災害で住宅が「全壊」や「大規模半壊」などの被害を受けた場合には、生活再建のための費用を補助する『被災者生活再建支援法』という法律があります。

 

 

※被災者生活再建支援法の概要―内閣府HPより

http://www.bousai.go.jp/taisaku/seikatsusaiken/pdf/140612gaiyou.pdf

 

 

しかし、この制度では「全壊被害を受けた住宅の数」が、該当する都道府県・市町村内に一定数以上ないと適用されず、昨年の台風で浸水被害にあった多くの世帯の方は、支援を受けられませんでした。

 

現在、この制度からもれてしまう被災者の支援のために、多くの都道府県・市区町村では独自の支援制度を作っています。

 

埼玉県の被災者支援制度

 

埼玉県では、県と市町村の共同出資により「生活再建支援金」「家賃給付金」「人的支援」が受けられる、『埼玉県・市町村被災者安心支援制度』が設けられています。

 

 

※埼玉県・市町村被災者安心支援制度の概要

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/news140401-02.html

 

 

・生活再建支援金

住宅の再建費用について、損壊の程度や再建方法に応じて最大300万円が支給されます。

 

・家賃給付金

生活再建中の民間賃貸住宅の家賃が支給されます。被災時には、全壊世帯に対して公営住宅が提供されるのが原則ですが、通院や子供の学区などの特別な理由で、民間の賃貸住宅に入居する場合に、1世帯あたり月額6万円(5人以上の世帯は同9万円)が、最長1年間給付されます。

 

・人的支援

被災者の生活再建に向け、給付に必要な「罹災証明書」の発行が急がれるため、家屋の損壊程度を認定する職員を、市区町村間で融通し合います。

 

 

国の制度では「全壊10世帯以上の市区町村」を対象としているのに対して、埼玉県は全壊が“1棟”のみでも同じレベルの給付を行っており、給付対象から漏れる被災者を無くそうと取り組んでいます。

宮城県なども埼玉と同様です。

 

 

災害ごとの被害に応じた支援を求めて

床上浸水の場合、1m以上浸水しなければ、制度上の被害認定は「半壊」。

実際に、浸水した家で元の日常生活を取り戻すためには、家から水を出し、土砂や泥をかぶってしまった家財道具を運び出して、家の中を掃除、消毒し、完全に乾燥してから、家財を戻したり買いなおしたり・・・と途方もない労力やお金が必要になりますが、支援金の額は、“全壊”でも最大300万円しか支給されません。

地域ごとの土地の形状(山間部、平野部、埋め立て地、川沿い、海沿いなど)によっても被害規模や状況が異なるため、全国一律はもとより、埼玉県内だけでも“一律支援”では、到底まかないきれない被害も、多く存在します。

 

また、制度の支援対象から漏れてしまった被害もあります。

昨年の台風で、自宅の擁壁が崩落するという被害にあった志木市のSさんは、そのままでは自宅まで崩落する恐れがあるにもかかわらず、家屋そのものには被害が無かったため、擁壁修復にかかる一千万円を超える費用を、全額自己負担することになってしまいました。

「排水管やガス管も壊れ、家に住めない状態です。浸水被害には支援があるのに、家に住めなくなる擁壁の崩壊に何の支援もないのはおかしい。ぜひ県の支援をお願いしたい」

と訴えています。

 

温暖化の影響で、「50年に一度」と言われるような異常気象がつづく昨今。

日本が長い時間をかけて整備してきたインフラや法制度も万能ではなく、今の環境に対応しきれなくなっています。

 

今までの枠組みにとかわらず、災害の被害状況に応じた支援と現状に合った制度作りを、今後も積極的に求めていきたいと思います。